公正証書で強制執行するためには

公正証書で強制執行するためには

公正証書を作っておけば、養育費が支払われなかったときは直ぐに強制執行することができると聞いたことがあるかもしれません。


ですが実際に強制執行するためには、「執行文の付与」および「送達証明書」を取得しなければなりません。(公正証書の正本または謄本が債務者へ送達されたことを証明する文書を「送達証明書」といいます。)これらは、公正証書を作成した公証役場へ出向かなければ取得できないものですので、いざ強制執行しようと思ったときに再度公証役場まで足を運ぶとなると、余計な手間や時間がかかってしまいます。ですので、当事務所では、公正証書を作成される時点で、公証人に執行文付与及び債務者への公正証書の送達を依頼し、送達証明書を取得しておかれることをお勧めしています。


当事務所では、執行文の付与および送達証明書の取得をあらかじめおすすめしておりますが、公正証書を強制執行するための道具として使うのではなく、あくまでも約束を守ってもらうための一材料として捉えてくださいとお伝えしています。もし支払いを滞れば、強制執行されるかもしれないということを支払う側が知っていれば、約束は守られやすくなりますよね。権利者側が、「いざとなったら強制執行してやる!」と脅すためものではなく、離婚して夫婦ではなくなっても、決めた約束を守っていくことをお互いが誓うためのものだと捉えていただくことで、本来の意味を成すと考えております。

差し押さえの範囲

差し押さえの範囲

強制執行をして相手の財産を差し押さえる場合、通常の債権は滞納分しか差し押さえることができませんが、養育費のについては、滞納分に加えて支払期限が到来していない将来の分も差し押さえることが可能です。

差押えの対象となる財産としては、預貯金、不動産、給料が代表的です。

給料を差し押さえる場合は、原則として手取り金額の2分の1まで差押えが可能です。

給料の差押えをした場合、一度差押えをしてしまえば、取下げるまで相手の給料から天引きして養育費を支払ってもらうことができます。

一方で、預金を差し押さえた場合は、すでに支払期限が到来している養育費しか回収できないため、将来の養育費についてはその都度、差し押さの手続きが必要となります。

強制執行手続きの流れ

強制執行手続きの流れ

①公正証書を作成した公証役場にて公正証書に「執行文の付与」および特別送達手続きをし、「送達証明書」を取得します。※弊事務所にて公正証書作成サポートをご依頼いただいた依頼者様には、公正証書作成時に執行文付与及び送達証明書交付を行っていただくようお勧めしております。


②申立てに必要な書類を集めます。
・公正証書の正本(執行文付与されたもの)
・送達証明書
・債務者が会社員の場合は勤務先の登記事項証明書(給料を差し押さえたい場合)
・ご自身(債権者)の住民票(発行日から1ヶ月以内のもの)
・ご自身(債権者)の戸籍謄本(発行日から1ヶ月以内のもの)
・債権差押命令申立書
・当事者目録 2部
・請求債権目録 2部
・差押債権目録 2部


③債務者(養育費の支払い義務者)の住所を管轄する地方裁判所で申立てを行います。
申立費用として4,000円(収入印紙)と切手代2~3千円程度が必要となります。


④裁判所が書類の審査の後、差押命令を出します


⑤裁判所が債務者の勤務先(第三債務者)、債務者、債権者へ送達します


⑥債務者の勤務先(第三債務者)に対して取立てを行い、勤務先から直接(債務者の給与分から)養育費分の支払いを受けます。


⑦債権者は、裁判所に対し取立届を提出します。

強制執行のデメリット

強制執行のデメリット

養育費の強制執行をすることで仮に養育費の支払いを受けられたとしてもデメリットがあることを忘れてはいけません。

先に記載しております【強制執行手続きの流れ】について確認していただいた方はお気づきかと存じますが、強制執行の申立ては非常に煩雑でご自身で行うのは非常に手間がかかります。

ですので制執行の申立てを検討される場合は、弁護士に依頼して行うのが一般的です。そうなると必然的に弁護士費用がかかってしまいます。

もし、公正証書を作成せず、口約束で養育費の支払いを取り決めていた場合は、養育費に関する調停からのスタートとなり相当の時間も要します。

また、勤務先に養育費を支払っていない事実を知られ、居心地が悪くなり退職してしまうケースもあります。そうなると、せっかく給料を差押えても意味がなくなります。

最も懸念すべきは、養育費の支払い義務者との関係性の悪化です。

強制執行をして勤務先に給料の差押えをしてきたような相手と今後冷静に話し合いができるでしょうか?

強制執行を検討せざるを得ないようなケースでは、既に面会交流が行われていないケースがほとんどですが、親の揉め事を子供が感じ取ってしまうことが最大のデメリットと言えます。

養育費が払われていない実情を知り、最も傷つくのは子供なのです。