離婚後に養育費の支払いがだんだんと遅れるようになり、催促しないと支払われなくなり、ひいては全く支払われなくなるといったケースがよくあります。
このようなケースでは、支払義務者(養育費を支払う側)との連絡がつかないことも容易に想像できます。
ではこのような場合、どういった手段で養育費を支払ってもらうことができるのでしょうか。
養育費の支払い確保の手段は、履行勧告、履行命令、強制執行の3つの方法があります。
履行勧告
履行勧告
調停・審判・訴訟を経て離婚したにもかかわらず、義務者(養育費を支払う側)が養育費を支払わない場合に、家庭裁判所に連絡して養育費の支払い義務の履行を勧告してもらう方法です。
家事事件手続法第289条第1項
義務を定める第39条の規定による審判をした家庭裁判所は、権利者の申出があるときは、その審判で定められた義務の履行状況を調査し、義務者に対し、その義務の履行を勧告することができる。
履行勧告は、家庭裁判所調査官が義務者に対して、養育費の支払いをするように説得し、直接促すので心理的な効果があると考えられています。
また、履行勧告の申し立ては費用がかからず、権利者(養育費を支払ってもらう側)の負担が軽く、利用しやすい制度です。ただし、あくまでも支払いを促す制度であり、支払いを強制するものではありません。
また、履行勧告は裁判所の手続きを行った事項についてのみ行えるものですので、公正証書などの当事者間で取り決めたものに関しては対象外となります。
履行命令
履行命令
権利者は、養育費を支払わない義務者に対し、養育費支払義務を履行するように命じる審判を申し立てることもできます。
家事事件手続法第290条
1 義務を定める第39条の規定による審判をした家庭裁判所は、その審判で定められた金銭の支払その他の財産上の給付を目的とする義務の履行を怠った者がある場合において、相当と認めるときは、権利者の申立てにより、義務者に対し、相当の期限を定めてその義務の履行をすべきことを命ずる審判をすることができる。この場合において、その命令は、その命令をする時までに義務者が履行を怠った義務の全部または一部についてするものとする。
2 義務を定める第39条の規定による審判をした家庭裁判所は、前項の規定により義務の履行を命ずるには、義務者の陳述を聴かなければならない。
3 前二項の規定は、調停または調停に代わる審判において定められた義務の履行について準用する。
申し立てが裁判所に認められれば、支払われていない養育費の支払いを命じる審判を行うこととなります。
また、裁判所から履行命令をされたにもかかわらず、義務者が正当な理由なくその命令に従わなかったときは、義務者に対し10万円以下の過料が課されます。
家事事件手続法第290条第5項
第一項の規定により義務の履行を命じられた者が正当な理由なくその命令に従わないときは、家庭裁判所は、十万円以下の過料に処する。
強制執行
強制執行
強制執行とは、調停・審判などの裁判所の手続きや公正証書で取り決めたとおりに養育費を支払わない義務者に対し、財産(給料や預貯金など)を差し押さえて、その財産の中から強制的に支払いを受けるための制度です。
公正証書を作成し協議離婚した場合、養育費支払い確保のために履行勧告や履行命令の制度は利用できませんが、強制執行の制度を利用できるということです。
養育費の支払いを受けるための強制執行においては、支払い義務者の給料や預金口座を差し押さえが主に用いられます。
例えば、給料の差し押さえをすると、差し押さえた給料(支払い義務者の給料)から直接支払いを受けられることとなります。
強制執行の特徴
強制執行の特徴
1.給料を差し押さえた場合、取り下げるまで差し押さえが続きます。
民事執行法第151条の2第1項
債権者が次に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権を有する場合において、その一部に不履行があるときは、第30条第一項の規定にかかわらず、当該定期金債権のうち確定期限が到来していないものについても、債権執行を開始することができる。
2.給与差し押さえ可能範囲が2分の1。
一般債権(借金など)の差し押さえ可能範囲は、原則手取り額の4分の1までと決められていますが、養育費の未払いで給料を差し押さえる場合は、子どもの福祉の面が考慮され手取り額の2分の1が差し押さえ可能な対象となっています。
差し押さえ金額の例
例えば、義務者の給料(手取り額)が40万円の場合
<一般債権>
40÷4=10万円まで差し押さえ可能
<養育費の未払いにおける差し押さえ>
40÷2=20万円まで差し押さえ可能
一般債権に比べ、養育費未払い対する債権は子どもの福祉が考慮されているため差し押さえ可能範囲が大きいのです。